中和行動

日々の生活を中和するためのブログです。

「幸せ」について知っておきたい5つのこと (NHK「幸福学」白熱教室)★★★★☆

この本は科学的に明らかとなっている"幸福な人"の条件*1をまとめたものです。

幸福*2に関する研究者の5つの講義をまとめたもので、さながら幸福に関するレビューペーパーといった感じでしょうか。だから、「幸福になるためには○○をすればよい」というわかりやすい形ではなく、「幸福度の高い人の多くに共通する条件はXX。ただし、必しもXXであれば幸福であるとは限らない」というような、研究者の厳密な書きぶりでいくつもの研究成果が取りまとめられています。

幸福の3つの材料

自分がこの本を読んだ感想は、「あぁ人間の幸せって、原始時代から変わらないものなのかもなぁ」ということです。この本では幸せの"3つの材料"として、「人との交わり(social)・親切(kind)・ここにいること(present)」が挙げられています。これらの3つすべてが裕福さ、物質的豊かさやテクノロジーの発展とは無関係です。

幸せになるには、ケーキを作るときのように、3つの材料が必要なのです。それは「人との交わり(social)・親切(kind)・ここにいること(present)」の3つです。

つまり、幸いなことに、"幸せ"というのは、一部の裕福層やインフルエンサーなどが達成できるというものではなく、"普通"の人でも達成できるものと言えそうです。おそらく、幸福は、原始の狩猟採集社会*3で人間が生き延びるために"役に立つ"感情だったのだと思われます。例えば、人と交わりに幸福を感じるようにプログラムされているのは、幸福を通じて人との協力を促す事ことで、一人で背負うには大変なリスク(何週も食料が取れない等)を分散させ、生き延びるのに役立ったのではないでしょうか。なので、"普通"の人でも達成できるというのは当たり前と言えば当たり前かもしれません。

なので、上記の3つの"材料"は現代の価値観(年収や物質的豊かさ)とは別のところにあると言えそうです。ただ、皮肉なことに、現代では意識していないと、これら3つのことは簡単に見失ってしまえます。例えば、ここにいること=目の前のことに集中することというのは、スマホが簡単に奪ってしまいます。また価値観の多様さや日本の経済的困難さから結婚は当たり前ではないと考える人も増えていますが、未婚は人との交わりの一部を失うことになります(残酷ですが)。

本記事では、これら3つの項目を簡単に説明した後、その他幸福に関係するもの・関係しないものについて列挙してゆきます。

人との交わり・親切

本書では、5つの異なるトピックを扱ったものにも関わらず、人との交わり、親切が幸福に影響すると繰り返し出てきます。つまりそれ程重要ということです。

ポジティブ心理学の先駆者たちは、幸福度の高い人たちを集めて研究し、彼らを幸せにしているものは何かを突き止めようとしました。(中略) それぞれのタイプは違いますが、(幸福度の高い)上位10%の人たちに共通していたのはたった1つ、社会との結びつきが強いことでした。幸せな人たちはみな、友人や家族と良好な関係を築いています。

ボランティア活動をすることは、より大きな幸福感に結びつくのです。逆もまたしかり。幸せな人のほうがボランティアに積極的な傾向があります。ボランティアは人を幸せにしやすいのです。

親切は一日一善よりも、1週間のある日に5つ親切にしたほうが幸福を感じやすいようです。なのでボランティア活動が人を幸せにするのもうなづけます。また、感謝の気持ちを示すことや、感謝日記をつけることは、幸福度に大きく寄与するとのこと。


また、誰と関わると幸せを感じるかは国によって異なりますが、日本では家族との助け合いが幸福度を高めるようです。

日本人にとって、より幸せになる人間関係はどれなのでしょうか。内閣府の調査によると、幸福感を高めるのに有効な手立てとして最も多い答えが家族との助け合いでした。次に重視しているのが友人、そして地域住民、職場の同僚という順番でした。

この人との交わりが人の幸せのキーファクターと知って、自分には省みるところがありました。自分は仕事や、不安から自分のための勉強に時間を割いて、人と交わることを後回しにすることがあります。ただ、最近、"これずっと続けていると辛いな"と思い、方針を変えたのですが、趣味のサークル等で人と継続的につながっている人は幸せそうな人が多いです。社会的地位を得ることを目指すより、"足るを知る"方が幸せに近いのかなとも思いました。

一方、この知見は親が"毒親"だったり家族との関係が悪い人、未婚の人にはチクッと刺さる事実だろうなぁと思います。この本では"誰でも幸せになれる"ということが書かれていますが、それは"普通"の人にとってです。ただ、人とのつながりは、自分でも切り開く余地があるので、今いる場所とは別の場所を見つけられる可能性があるというのは幸いかもしれません。

ここにいること(目の前のことに集中すること)

ここにいること(=目の前のことに集中すること)は幸福度を高めます。下記のグラフでは、目の前のことに集中している場合(not mind wandering)、幸せで他のことを考えている状態(peasant mind wandering)と同じかそれ以上の幸福度を示しています。普通の状態で他のことを考えている状態(natural mind wandering)よりかなり高い幸福度です。

面白いのは、目の前のことに集中していればつまらない事(渋滞中の運転)でも幸福に感じるようです。また、マインドフルネスとも関係がありそうですね。少し調べてみたいです。

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目の前のことに集中することと幸福度(横軸)の関係: Matthew A. Killingsworth & Daniel T. Gilbert (2010), Science, "A Wandering Mind Is an Unhappy Mind"より

こちらは、下記のTEDの動画でわかりやすくまとめられています。

www.ted.com

幸福度と関係があったこと

ここから、より具体的な項目について列挙してゆきます。

結婚

結婚している人は幸福度が高いです。おそらく、"社会的つながり"を高めるからと思われます。しかし、本書でも述べているように、結婚したから幸福度が高いのか、幸福度が高い人が結婚するのか、結婚と幸福度の因果関係は不明です。

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結婚と幸福度の関係: O Lelkes (2008) Policy Brief "Happiness Across the Life Cycle: Exploring Age-Specific Preferences" より
ESS: The European Social Survey 2002/2003

経験にお金を使うこと/人への投資

人は物を買っても一時的に物質的満足度が得られても、幸福度は変わらないようです。逆に後悔する事さえあります*4
本書では、経験にお金を使うこと(旅行やイベント等)や他人へお金を使うことが幸福度を高めることが紹介されています。どうもこれも"人との交わり"を強めるという側面と関係がありそうです。

モノを買うより経験を買うほうが、より幸福感を得やすい。その理由は「記憶に残り」「自分だけの個性を感じ」「他人と社会的価値を共有する」ことにあります。

(ウガンダとカナダ)どちらの国のケースでも「自分のためより人のためにお金を使ったことを思い出すほうが、より幸福感が高い」という点でぴったり一致していたのです。

(中略)さらに、子どもの表情を調べてもらったところ、おやつをもらったときより、分け与えたときのほうが、より大きな幸福感を示しているという結果も出たのです。

特に、人へ何か投資をする(プレゼント等)と喜びを感じるということは、国の貧富とは関係なく、また幼児でも持っている感情であり、"人の生まれ持った性質"ではないかと本書で述べられています。これも原始時代、「人を助ける」という行動が生き延びるために非常に役に立ったのではないかと推測されていました。

幸福度とあまり関係がないもの

お金持ちであること

お金は幸福度を増大させますが、それはある一定の範囲までです。米国を対象とした研究では年収$7,500で幸福度が頭打ちになることが示されています。また全世界を対象とした研究では、日本を含むEeat Asiaでは年収が600万円ほどで幸福度(Mean positive affect (of income))が頭打ちになるようです*5
面白いことに、"頭打ち"の年収を超えると幸福度が低下する地域がみられます。これは年収が高い人は仕事の責任も大きく、ストレスの影響が収入による幸福度の情報を上回るということを意味していそうです。
また、East Asiaでは所得1200万円で満足度(幸せと異なるもの。自分で自分の人生をどのように評価しているかという指標(Life evaluation))*6が最大値なので、主観的な認識も上場企業の社長のような報酬でなくても"満足"するようです。

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年収と幸福度の関係 in US: プリンストン大学 (2010)  (本書より引用)

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幸福度と年収の関係: A. T. Jebb et. al. (2018) "Happiness, income satiation and turning points around the world," Nature Human Behaviour (Fig.1b)

EA: East Asia (日本はここに含まれる), GL: Global, AF: Sub-Saharan Africa; AUS, Australia/New Zealand;  EE: Eastern Europe/the Balkans, LA: Latin America/the Caribbean, ME: Middle East/North Africa, NA: Northern America, SE: Southeast Asia, WE: Western Europe/Scandinavia.

子供を持つこと

子供を持つことは幸せとあまり関係がないようです。

これまでに行われた研究を見てみると、子どもの存在が幸福度に与える影響は小さいようです。ただし、子どもがいたほうが、多少は幸せになるという結果が出ています。(中略) このテーマは、研究者の間でも意見が分かれるのですが、いずれにしても影響は小さいという点では意見が一致しています。

これは、子供を持つことで、子供の成長を喜ぶ機会も増えますが、子供のことで頭を悩ませることもあるからと思われます。なので、子供を持つということは幸せの"分散"を大きくするような効果なのかもしれません。

まとめ

筆者は幸福というのは、現代の価値観ではなく、"原始時代の価値観"(人間の根源的な欲求)に従うことで得られるものという認識を深めました。私たちのOSは、基本、原始時代を生き延びるようにプログラムされているため、感情の一つである幸福感も、原始時代に住んでいる自分の視線から考える必要がありそうだと。

下記、本記事で紹介した幸せになる・幸せと関係がある行動についてのまとめです。

 

幸せと関係する行為

  • 人とのつながり(結婚、家族とのつながり)

  • 親切・感謝
  • 目の前のことに集中すること
  • 他社への投資、経験へお金を使うこと
  • 600万円までの所得の増加

幸せと無関係な行為

  • お金持ちであること
  • 子供を持つこと

 

最後までご覧いただきありがとうございました。

ご紹介した本では、 他にも、仕事で幸せを感じる方法(ジョブクラフティング)、挫折から立ち上がる方法、幸せの賞味期限など様々な研究の情報がまとまっているので、ぜひ手に取ってみてください。

 

参考文献
  • M.A. Killingsworth, D.T. Gilbert, A wandering mind is an unhappy mind, Science, 330 (2010) 932. [目の前のことに集中することと幸せについて]
  • O. Lelkes, Happiness Across the Life Cycle: Exploring Age-Specific Preferences, Policy Brief, (2008). [結婚と幸福の関係について]
  • A.T. Jebb, L. Tay, E. Diener, S. Oishi, Happiness, income satiation and turning points around the world, Nat Hum Behav, 2 (2018) 33-38. [所得と幸福の関係について]
  • D. Kahneman, A. Deaton, High income improves evaluation of life but not emotional well-being, Proc Natl Acad Sci U S A, 107 (2010) 16489-16493. [Emotional well-beingとLife evaluationの定義について、所得と幸福の関係について]

 

 こちらも次に読んでみたい本たちです。

幸せな選択、不幸な選択――行動科学で最高の人生をデザインする

幸せな選択、不幸な選択――行動科学で最高の人生をデザインする

 

 

*1:注意が必要なのは、これらの項目が満たされているから幸せなのか、幸せだからこれら3つの条件が満たされているのかは本書では議論されていません。なので、幸福になるための方法と言うと言い過ぎかもしれません。ただ、幸福に近づくために"意識すべきこと"程度には言えるのかもしれません

*2:本書の"幸福"は学術的には"Emotional well-being"というものを指すようです。それは何かというと、"Emotional well-beingは、個人の日常経験の感情的な質を指します-喜び、ストレス、悲しみ、怒り、愛情の経験の頻度と強度は、1つの人生を快適または不快にします。" "Emotional well-being refers to the emotional quality of an individual’s everyday experience—the frequency and intensity of experiences of joy, stress, sadness, anger, and affection that make one’s life pleasant or unpleasant." Daniel Kahneman & Angus Deaton (2010) "High income improves evaluation of life but not emotional well-being" より。"幸福"は主観的なものであるため、客観的に測定するために、"認識(life evaluation)"と"感情"(Emotional well-being)に分けて議論するようです。

*3:人類の誕生が500万年前にたいし、農耕の開始がおおよそ1万年前なので、人間の感情や欲求という本能的なものは原始時代を生き延びるために進化したものと仮定できるとする

*4:筆者はアートが好きでたまに購入することがあるが、高い買い物程後悔する法則があるような気がする。"ギャラリーで見たように輝いては見えないのに、あんな高い金額を!?"となる

*5:論文中では、日本円へは1ドル=110円で換算。購買力平価比率などを考慮しているようです

*6:"人生評価とは、人が自分の人生について考えたときに、その人の考えていることを指します。" "Life evaluation refers to the thoughts that people have about their life when they think about it." Daniel Kahneman & Angus Deaton (2010) "High income improves evaluation of life but not emotional well-being" より